僅かな前触れ


テーブルの上に、ワインボトルが二本。
先日、珍しく親戚からワインなんて送ってきたものだから、あまり飲む方ではないくせに少し飲んでみたくなった。 だからこの時は二人とも、少しだけおかしかった気がする。

「…んっ」

強請るようなキス。ピチャリと耳に残るキスの音。
抱きしめていただけだったはずなのに、いつの間にか互いにもっと触れたくなった。
だけど酒の酔いに負けて触れているだなんて癪だから、これで終わりと言い聞かせるようにの唇を厭らしく奪い取る。

「ん…は、ぁ。やめちゃうの?」
、酔ってるだろ」
「平気。意識はちゃんとしてるよ」
「そう?」

リョーマはの手を引き、自身の膝の上に跨がらせるようにを乗せる。
ぺろりと舌でリョーマがの首筋を舐めると、「あ…っ」との体がピクリと反応しリョーマの肩を強くつかむ。
いつもより大きな反応を見せるにリョーマは息をつく。

「やっぱ結構酔ってるじゃん」
「私、リョーマならなにされてもいいよ」
「そういうこと言うから駄目なんだってば。押さえられなくなるし、俺も何するかわかんない」

相変わらずリョーマは過保護だ。それでいてすごく優しい。とは心の中で思う。

「気持ちよくはさせてあげるから我慢してよ」
「え…っ!ま、まって!りょーま!それされちゃうと…あっ!」
「やだ」

のスカートの裾から太股を撫でるように手を滑らせショーツに触れる。
ショーツの上から敏感な箇所を指で刺激すると、の体が刺激に耐えるように力がこもる。

「力抜いてよ、
「ひゃっ、ぁっ!」

リョーマが耳元で囁くようにそう言いの耳をぺろりと舐める。
背中を反らし、反応したに拍車をかけるように、 じわじわと塗れだしたのショーツの隙間から手を入れ、直にの敏感な箇所に指が触れる。

「も…う…ぁ…ん、んん!」
「相変わらず、耳弱いよね」
「だって…あっ!だめ!」
「安心しなよ。中途半端なことしないし。ちゃんとイかせてあげるから…」

の中をかき乱す手を止めることなく耳を刺激する。
チュッと音を立てての頬にキスを落とす。

「あ…は、あ…」

肩で息をするに思わずリョーマの口元が緩む。

「…ず、るいよ、リョーマ」
「なにが」
「これじゃ、私ばっかり…」
「余裕ないくせに俺の心配しなくていい。それに全部、俺がしたいようにしてるだけだって」

そう言って優しくの胸に手を添えると、 そんなリョーマの手を上からが自身の手を被せるように掴み、胸に強く押し当てる。

「…大好き。リョーマ」
「なに突然。びっくりしたんだけど」
「私、やっぱり相当酔ってるかも」
「だからそう言ってるじゃん」
「でも好きなんだから仕方ないよね」

リョーマの首に手を回し、甘えるように抱きついてきたにリョーマは息を吐く。
こうなると、どうも自分は彼女に弱い。全部、全部、聞いてあげたくなる。
無茶なことも、望むがままに聞いてあげたくなってしまう。そしてもっと、触れたくなってしまう。

「リョーマも…好き?」
「好きでもない相手にこんなことすると思うわけ?」
「あはは、リョーマらしい。でもすっごく嬉しい」

素っ気ない返事に、本当に嬉しそうに笑顔を見せる
おそらくお酒で酔いが回っているからこその言葉だろう。
もうこの際、全部お酒のせいにしてしまおうか。
の唇に触れるだけの口付けを何度か交わすと、照れたようには目線を逸らすもちらりとこちらを見ると優しく微笑んで見せる。

「リョーマ…」
「ん」

だめだ…。どんどん追いつめられているのは自分の方だ。
リョーマが耳元で囁くように「」と名前を呼ぶ。
の体がピクッと反応する。

「なにもしてないんだけど?そういう煽るような反応やめてくれない?」
「っ!弱いって分かってて…わざわざそういうことを…」
「当然」

全部知ってる。どこが弱いのか、どこを攻めれば快楽へと陥るのか。
の太腿の内側を撫で上げ、耳元に息を吹きかけると再びが声をあげる。

「っ…ぁ!リョーマ!遊びすぎ!」

怒るに対して、リョーマは悪戯な表情でベッと舌を出す。
少し乱れたのTシャツの中に手を入れ、下着の上からの胸をもみ上げる。
わざとぺろりとの耳を舐めると、「ひ、あ…ん…っ」との声が漏れる。
それを見計らうように、さらに拍車をかける。上の下着をずらし、直にの胸の先端を指でいじる。

「あ…ん、ん…」

リョーマを求める声をあげながらは、リョーマのシャツを掴む。
そんなに煽られるようにリョーマは反対の手で、の体を撫でる様に手を滑らせ、下の方に手をやるとすでに塗れているショーツを脱がす。

「入れるよ…」
「へ…ぁ!!」

の中を指で再びかき乱す。の体がリョーマの指に翻弄されるように体がはねる。
徐々に激しくなる指と襲いだした上下の快楽に耐えきれず、のなにかがドクン!とはち切れた。

「ん…!は、ぁ…」

力が抜けたように倒れ掛かるの体を支えるようにリョーマは抱きしめる。
酔っているせいか、いつもよりペースが早く体が熱い…。
お酒さえ入っていなければ、このままの流れで持ち込んでやるところだが今日はそういうわけにはいかない。
歯止めをかけてやれる自信がない。

「…りょー、ま」
「ん」

手を伸ばしリョーマに抱きつく。リョーマはそんなに答えるように強く抱きしめた。


「え?次の試合、見に行っていいの?」

乱れた服を整えながら、驚いたように目をぱちくりとさせるにリョーマが頷く。
すると体が重いのか、酒のせいか、定かではないが、少しだけ辛そうな表情をしつつもは、リョーマとの距離を詰めようと自身の服を整えつつも歩み寄る。
そんなの様子に気付くとリョーマは手を引いて、自身の足の上に座らせる。

「いつも駄目って言うのに…」
「次からは来てもいい。ま、来れるならだけど」
「行くよ!行きたい!でも、どうして?あんなに駄目って言ってたじゃない。取材とかで聞かれりするのが面倒くさいって」
「その面倒くさいのが無くなると思うから」
「え?」
「ま、見ててよ」

の体を後ろから抱きしめつつも、反対の手でポケットの中に忍ばせた赤いリボンのかかった小さな四角い箱をリョーマは密かに握りしめる。
勝つ自信はある。リョーマはテーブルの上に置いていた封筒をに差し出す。

「…?」
「来るつもりあるなら、あげる」
「あ。次の試合のチケット!流石、用意いい!リョーマの気が変わらないうちに貰っちゃおうっと」

何度言おうとしたか分からない。だけどその思いを押さえてここまできた。やっとたどり着いたこの瞬間。
もう逃すことなどしない。押さえきれない思いを、彼女へ告げる。
次の試合に勝ったその後こそが本当の勝負。
負けられない思いを抱いて、の唇を奪い取った。

彼女へのプロポーズまであと一週間。
思いを抑え込む様に彼女を抱きしめたそんな少しだけおかしな夜だった。