始まる生活


気付けばそれ以外見えなくなった。正直、いつからかなんて覚えていない。
ただの興味本意だったのが、気付けばハマっていて…。
欲しいと思うようになってしまったんだ。

pipipiと時計のアラームが響く。

リョーマは乱暴に時計の頭を叩き、時刻を確認するとゆっくりと起き上がる。

「あれ?今日って休みじゃなかったっけ」

普段の習慣で当たり前の様に時計を止めたが、今日は休日だ…。
いつのもの癖で昨日の夜、時計のタイマーを掛けてしまったのだろうか。
いや、そんなはずない。だって昨日はここで…。

「あ…」

リョーマは思い出したように、ベッドから起き上がり部屋を出る。
そのままキッチンをのぞいてみると機嫌がよさそうにパンを焼いている彼女が立っていた。

「あ。リョーマ!おはよう!今、パン焼いてるよ」

笑顔でそういうに目を奪われる。 この光景が日常となったのにはまだ慣れない…。

「準備してるから、ちょっと待っててね」
「それより、聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
「時計のタイマー設置したのだろ」

不機嫌そうにぶすっとするリョーマには、くすくすと笑う。

「だって、せっかくのお休みだし」
「そうじゃなくてさ。起こしてくれればいいのにってこと」
「ごめん。私ちょっと早く目が覚めちゃったからまだ起こすの可哀相かと思って」
「寝れなかったわけ?」
「ううん!そういうわけじゃないよ」

台所に立つを後ろから抱き締める。 するとが驚いたように、リョーマの方を振り返る。

「珍しい。リョーマが甘えくるなんて…」
「ちょっとね」
「…こわい夢でも見たとか?」
「餓鬼じゃあるまいし…。でも、ちょっと近いかも」
「なにそれ。変なリョーマ」

怖い夢…確かに怖い夢かもしれない。
彼女が居ないという怖い夢。何度も願って、ようやく掴んだこの夢を覚ましたくはない。
腰に回した手に軽く力を入れ、髪を掻きあげて首筋に口づけるとが驚いたように声をあげる。

「なっ!ま、まだ朝だよ!リョーマ!」
「関係ないじゃん」
「いや、あるから…って、ス、ストップ!ストーップ!!」

着ていたシャツの中に侵入させたリョーマの手をが懸命に押さえつける。

「なに」
「それは私の台詞!っていうか、もうー。パン焦げちゃったじゃない」

オーブンを開けて、残念そうに口をとがらせるに対して、 リョーマは何事もないように「食べれるからいいじゃん」と返し、 のシャツの中に侵入させていた手を動かす。
の胸を優しく撫でるように下着の上から手を触れた。 「ぁ…」と小さくの声が漏れる。

「…だ、駄目だってば。リョーマ」
「駄目って顔してないんだけど」

赤く染まるの頬に手を添え、自身の方を向かせて唇を奪い取る。 舌で逃げようとするの舌を絡め取り、 の胸に触れていた手をゆっくりと動かす。
それに気付いたの肩がピクリと反応する。

「ず、るいよ…。リョーマ」
「なにが」
「こんなに優しいの…ずるい…」

いつも口では冷たいのに、体に触れる時はいつも優しい。 だからつい流されてしまう…。
いつの間にか外されていた下着のホック。緩んだ隙間から直接リョーマの手がの胸に触れる。
ペロリと舌での耳を舐め、指で胸の先端を刺激する。 徐々に漏れだすの声が響く。

「こういうシチュエーションだとさ、悪いことしてるみたいだけど止まらなくなるよね」
「ば、馬鹿…!ん…!」
「もうその気になってるんじゃない?触って欲しくてさ」
「!」

そう言いながらリョーマはが履いていたスカートを捲りあげるように太ももの内側を撫でる。

「こ、此処じゃしないからね!さっきも言ったけど朝だし!」

「だめだめだめ!」とこの期に及んでも必死で理性を保とうとするに、 リョーマが口角を釣り上げ、撫で上げる手をゆっくり上へと移動させる。

「へぇ…結構濡れてるくせに」
「ゃ、あ…」

既にわずかに濡れているのショーツの上からリョーマの指が刺激する。
ビクンと体が跳ねるの腰にリョーマは反対の手を回して体を支える。

「激しい方がいいならもっとしてあげるけど」
「だ、から…。ここは嫌なの。台所立つ度に思い出しちゃうじゃない」
「今更?それも悪くないじゃん」
「やだってば」
「なら部屋戻る?」

リョーマの言葉に、ピタリとの動きが停止するも根負けしたようにコクンと頷く。

「決まり」
「きゃっ」

リョーマは、やっと折れたを横向きに抱きかかえて持ち上げる。
先程まで寝ていたベッドに逆戻り。パンも焦げてしまったし…全部やりなおしだ。
と思いつつもはされるがままにベッドの上におろされる。



と耳元でささやかれる声に翻弄されるようにキスをする。
リョーマが既に乱れているの服を脱がしながら、 体に触れる度に「ぁ…ん…」との喘ぎ声が漏れる。

「全部俺のだよね」
「え…?」
「なんでもない。自分の彼女でも監禁すると犯罪かなって思っただけ」
「…冗談だよね」
「当たり前じゃん。そもそも既に俺の家に居るわけだし。まぁ、外出禁止にしていいならするけど」
「そ、それはやだ」

まだ慣れない始まったばかりの二人での生活。
ここにいるのが自然になる日を望んでいるのはきっと自分の方…。
自分の中に閉じ込めておきたい欲と自分のものだとを表すように、の肌に赤い痕を付けた。
だけどには気付かれないようにと本音を隠して…。